引っ越して、まだ間もない朝のことだった。
はなとぶんは朝ごはんを食べ、窓辺でひなたぼっこ。
お気に入りのルーティンを終え、ふたりしてまったりくつろいでいた、そのとき。
私は、そっと壁に立てかけてあった――掃除機を取り出した。
カチッ。
スイッチを入れた、その瞬間。
「にゃああああっ!!」
ドタバタッ、ドドドッ!
ぶん、即ダッシュ。
驚異の瞬発力でリビングを一閃し、まるで流れるようなフォームで押し入れの奥へとスライディングIN。
『ぶん……今日も華麗だったよ』
静まり返った部屋に、掃除機の唸りだけが虚しく響く。
でも逃げるのは、ぶんだけじゃない。
「みゃっ!」
はなもつられるように、キャットタワーのてっぺんへぴょんっ!
そのまま、じーっと高みの見物。
まんまるな目で、身をかがめ、遠くから“怪物”の動きを観察している。
私は、何事もなかったようにリビングの掃除を始める。
押し入れのすき間から、ぶんの視線がチラリ。
掃除機が別の方向を向いた瞬間――
そろりと顔だけ出してきた。
『ぶん、それ、隠れてるつもりなんだよね?』
……いや、ちょっとわかるよ。
大きな音で、得体の知れない動きをする“それ”。
猫にとっては、まさに未知の生命体。
掃除が終わり、スイッチを切ると――急に訪れる静けさ。
すると、ふたりともすぐに現れてきて、くんくん、ぺたぺた。
自分のテリトリーを確かめるように、部屋中を歩き回る。
それから、ちょうどいい場所を見つけて、どてん。
丸くなって、すやすや。
『なんだかんだで……やっぱり、きれいな部屋って落ち着くのかな?』
その様子を見ながら、ちょっとだけうれしくなる。
午後、私は買い物へ。
そして帰宅すると――
ベッドの上にはながくるん、ソファの上にはぶんがぐでーん。
静かに、でも確実に。
この家が、ふたりにとって“安心できる場所”になっていることを感じた。
掃除機との戦いは、きっとこれからも続くだろうけど……
今日もまた、きれいな空間で、お昼寝できたらそれでいいよね。
ぶん。
……次こそ、掃除機とちょっとだけ仲良くなってみる?
……うん、ないか。
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