【ふたりといた時間】第15話:ついにぶんの抱っこデビュー

短編小説

私は結構な頻度で”細かい”って言われる。 たぶん、自分でもわかってる。そういう性格なんだ。

何かを始めるとき、私はいつもイメージトレーニングをする。 成功のイメージだけじゃない。『もしこうなったら?』『ああなったら?』と、頭の中で何通りもパターンを作る。 そしてその一つひとつに対して『それならこうする』と答えを見つけていく。 そうしないと、なんとなく動き出すのが怖いから。

でも、そんな私が、ぶんを抱っこした日は――

なんだか、全然ちがった。

テレビで、猫を抱っこしてる家族が映っていた。 お母さんの膝の上で、まんまるになってる猫。 お母さんは、猫の背中をそっとなでていた。

それを見てたら、なんとなく――本当に、なんとなくだけど、 『今なら、できるかも』って思った。

ぶんはいつものように、クッションの上でごろりん。 私はそっと近づいて、少しだけ手を伸ばしてみた。

『ぶん……ちょっと、いい?』

すると、ぶんは一瞬だけこちらを見て、 そのまま動かずに、じっとしていた。

それは、ぶんの――「いいよ」の合図。

そーっと、腕を入れて、体を支えて、 ぎこちなく、でもやさしく、抱き上げる。

……できた。

ぶんを、だっこできた。

思ったより、軽くて、あったかくて。 どきどきして、でもうれしくて。 なにより、ぶんが逃げなかったことが、ただただ奇跡みたいだった。

そのまましばらく、ぶんはおとなしく膝の上にいて、 ときどき喉をころころ鳴らした。

『……ぶん、ありがとね』

しあわせすぎて、調子に乗った私は、 次に、はなにも挑戦してみたくなった。

『はなも、できたりして?』

そーっと近づいて、同じように腕を差し出して。

はなも、意外と素直に抱っこされた。 『えっ、いけるじゃん?』なんて思った、その瞬間。

「シャッ」

突然、バタバタっと暴れて―― 顔に猫パンチ。しかも、爪付きで。

『うおっ……!』

見事に逃げられました。笑

はなはちょっと離れたところから、じっとこちらを見て、 「なにすんのよ」とでも言いたげな顔。

『……ごめん。調子のったわ』

私の頬にはうっすらひっかき傷。 でも、なんだろう。 その痛みすらも、ちょっとだけ、うれしかった。

だって今日は、ぶんが、だっこを許してくれた日だから。

コメント

タイトルとURLをコピーしました