年に、2〜3回ほど。
ほんの短い間だけど、家を空けることがある。
ちょっとした旅行——そんなとき、はなとぶんは、ふたりだけでお留守番だ。
出発の支度をしていると、はなとぶんはなんとなく気配を察する。
いつもなら寝ている時間なのに、どこか落ち着かない様子で、こちらにすり寄ってくる。
はなは、階段の途中から顔だけぴょこんと出して、じっと見つめてくることもある。
「どうしたの?」とでも言いたげな、少し不安そうな顔。
ぶんはリビングをうろうろしたり、私の足元を行ったり来たり。
荷物のにおいを嗅いだり、その周りをくるくる回ってみたり。
ときどき「ウォーン」とひと鳴きして、小走りで玄関へ向かう。
玄関のドアを開けようとすると、いつのまにか、ふたり並んで座っていた。
まるで見送りに来たみたいに、ぴしっと整列している姿に、思わず笑ってしまう。
『行ってくるね。いい子にしててね』
そう声をかけると、はなとぶんは目をまんまるくして、じーっとこちらを見つめてくる。なんとなく、わかっているような、わかっていないような——
でも、ちゃんと聞いてくれている気がする。
最初のころは、ひとりぼっちにさせてしまうようで、ふたりのことが心配でたまらなかった。出発しても、何度もカメラアプリを開いては、胸がきゅっと締めつけられた。
けれど、数時間もすると、カメラの向こうに映るのは、
仲良く並んで眠っている、ふたりの姿ばかりだった。
はなは、お気に入りのクッションでスフィンクス座り。
ぶんは、その隣で、体を長くのばしてすやすやと寝息を立てている。
どうやらふたりとも、ほとんど寝て過ごしているらしい。
……いや、もしかしたら、わざと寝てるのかもしれない。
私が不安にならないように。さびしくならないように。
眠っている“ふり”をしてるのかも、なんて思ってしまう。
でも、それもきっと、ふたりなりのお留守番の過ごし方なんだろう。
猫には猫の時間があって、
ふたりには、ふたりだけの世界がある。
だから私は、こう思うことにした。
——これはこれで、きっと悪くない。
そして、帰ってきたとき。
玄関を開けると、最初に出てくるのは、たいていはな。
ぴょこんと顔を出して、寝ぼけまなこでこちらを見つめてくる。
その数秒後、ぶんが走ってきて、勢いよく鳴きながらお出迎え。
ちょっと怒っているような、でも嬉しそうな、そんな声。
『ただいま』
そう言うと、ふたりはそれぞれに鼻をひくひくさせて、
「おいし〜のちょうだい」コール。……まるで、打ち合わせしてたみたいに(笑)。
——大丈夫。ちゃんと帰ってきたよ。
そんなふうに伝えたくなる、いつもの再会の風景。
ふたりだけのお留守番。
それは、私たち家族にとって——小さな信頼の積み重ねでもあった。
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