【ふたりといた時間】第20話:ふたりだけのお留守番

短編小説

年に、2〜3回ほど。
ほんの短い間だけど、家を空けることがある。
ちょっとした旅行——そんなとき、はなとぶんは、ふたりだけでお留守番だ。

出発の支度をしていると、はなとぶんはなんとなく気配を察する。
いつもなら寝ている時間なのに、どこか落ち着かない様子で、こちらにすり寄ってくる。

はなは、階段の途中から顔だけぴょこんと出して、じっと見つめてくることもある。
「どうしたの?」とでも言いたげな、少し不安そうな顔。

ぶんはリビングをうろうろしたり、私の足元を行ったり来たり。
荷物のにおいを嗅いだり、その周りをくるくる回ってみたり。

ときどき「ウォーン」とひと鳴きして、小走りで玄関へ向かう。

玄関のドアを開けようとすると、いつのまにか、ふたり並んで座っていた。
まるで見送りに来たみたいに、ぴしっと整列している姿に、思わず笑ってしまう。

『行ってくるね。いい子にしててね』

そう声をかけると、はなとぶんは目をまんまるくして、じーっとこちらを見つめてくる。なんとなく、わかっているような、わかっていないような——
でも、ちゃんと聞いてくれている気がする。

最初のころは、ひとりぼっちにさせてしまうようで、ふたりのことが心配でたまらなかった。出発しても、何度もカメラアプリを開いては、胸がきゅっと締めつけられた。

けれど、数時間もすると、カメラの向こうに映るのは、
仲良く並んで眠っている、ふたりの姿ばかりだった。

はなは、お気に入りのクッションでスフィンクス座り。
ぶんは、その隣で、体を長くのばしてすやすやと寝息を立てている。

どうやらふたりとも、ほとんど寝て過ごしているらしい。

……いや、もしかしたら、わざと寝てるのかもしれない。
私が不安にならないように。さびしくならないように。
眠っている“ふり”をしてるのかも、なんて思ってしまう。

でも、それもきっと、ふたりなりのお留守番の過ごし方なんだろう。

猫には猫の時間があって、
ふたりには、ふたりだけの世界がある。

だから私は、こう思うことにした。

——これはこれで、きっと悪くない。

そして、帰ってきたとき。
玄関を開けると、最初に出てくるのは、たいていはな。
ぴょこんと顔を出して、寝ぼけまなこでこちらを見つめてくる。

その数秒後、ぶんが走ってきて、勢いよく鳴きながらお出迎え。
ちょっと怒っているような、でも嬉しそうな、そんな声。

『ただいま』

そう言うと、ふたりはそれぞれに鼻をひくひくさせて、
「おいし〜のちょうだい」コール。……まるで、打ち合わせしてたみたいに(笑)。

——大丈夫。ちゃんと帰ってきたよ。

そんなふうに伝えたくなる、いつもの再会の風景。

ふたりだけのお留守番。
それは、私たち家族にとって——小さな信頼の積み重ねでもあった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました