名前を呼ぶと、返事が返ってくる——
そんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
『はな〜』
『ぶん〜』
そう呼ぶと、それぞれがちゃんと、自分の名前に反応して顔を出すようになった。呼ばれていない方は、耳だけぴくっと動かして、そのまま寝ていたりする。
なんだか人間の言葉が通じているみたいで、すごく嬉しかった。
ある日、リビングにいて『ぶーん』と呼んだら、
階段の上から、とととっとぶんが降りてきた。
まっすぐ私のところまで来て、「なあに?」とでも言いたげな顔で、
すんすんと足元のにおいをかいで、ぺたんと座る。
その数秒後、『はなー』と呼んでみたら、
今度は別の部屋から、ぴょこんと顔を出して、
のそのそと歩いてくる、はな。
——名前って、ちゃんと届くんだ。
そう思った瞬間、胸の奥がふわっとあたたかくなった。
おもしろいのは、ごはんのとき。
“おいし〜の”をふた皿、それぞれの前に置いても、
はなはなぜか、ぶんのお皿に顔を突っ込もうとする。
どっちも中身はまったく同じなのに(笑)
『はな?ぶん?どっちも一緒だよ〜』
そう声をかけると、はなはちょっと首をかしげて、
「あ、そっか」みたいな顔で、自分のお皿に戻る。
たぶん、うすうすは分かってるんだろうけど、
私がそう言うことで、なんとなく安心するのかもしれない。
最近は、『おいし〜のだよ』って言うと、
はなとぶん、ふたりそろって、どこからともなく飛んでくる。
寝てたはずなのに、なぜかその言葉だけはすぐに届く。
——音のトーンか、発音か、それとも“気配”なのか。
それは私にもわからない。
でも、ふたりはちゃんと”わたしの言葉”を聞いて、
自分なりに考えて、そして動いてくれている。
通じ合うって、こういうことなのかな。
私はまだまだ“にゃんこ語”は下手くそだけど、
少しずつ、少しずつ、はなとぶんの目を見れば、
お互いの気持ちが分かるようになってきた気がする。
まるで、にゃんこ通訳になったみたいに。
——なんて、ちょっとだけ思ってるのは、たぶん私だけだけど(汗)。
でもね。
名前を呼べば来てくれる、その一瞬の距離感が、
私はとても愛おしい。
今日も、ふたりの名前を呼ぶ。
ただそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。
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