はなは、居心地のいい場所を見つける天才だった。
押入れの奥、日だまりの窓辺、ソファのひじ掛けの上……
『こんなところにいたの?』って思うような場所に、ぴたっとはまっている。
でもその“お気に入りスポット”は、なぜかいつも、後からぶんに取られてしまう。
あの日もそうだった。
はながのそのそと、こたつの中に入っていくのを、ぶんはじっと見ていた。
しばらくしてから、さも“たまたま通りかかっただけですよ”みたいな顔でふらっとやってきて、
何食わぬ顔で、するっとこたつに潜り込んだ。
数秒後——
「……ぴょこん」
とこたつから顔を出したのは、明らかに不満げなはな。
こたつの中をのぞいてみると、
ど真ん中でぶんが、のび〜っとお腹を出して寝ている。
『ぶーん……はなの場所、取っちゃダメでしょ?』
そう言うと、ぶんはちょっとバツの悪そうな顔で、ちらっとこっちを見る。
怒られるのは、だいたいぶん。
だって、後から来てるんだもん。
だって、はなが先にいたんだもん。
でも、ぶんにはぶんなりの言い分もあるらしくて。
私がちょっと強めに『ダメだよ』って言うと——
「……ぴゅっ」
って音がしそうな勢いで、押入れに駆け込んでしまう。
そしてそのまま、出てこない。
拗ねてる。完全に。
でも、その気持ち……なんかちょっと分かるんだよね。
なぜって? 私も子どもの頃、押入れにこもってたから。笑
ほんのり狭くて、ほんのり静かな押入れの奥。
そこでふて寝するぶんの背中は、ちょっと丸くて、ちょっと寂しげで、
「悪気はなかったんだよ」って言ってるみたいだった。
一方、はなはというと、
「ふんっ」って感じで、今度はテーブルの上を陣取っている。
……こっちも怒ってる。完全に。
場所を取られて、すねてる。完全に。
——でも不思議なのは、そうやってお互い「ぷんすか」してたはずなのに、
ふと気づくと、こたつの中でふたり、並んで寝ていたりすること。
え? 仲直りしたの?
いつ? どういうタイミングで?
話し合いでもしたの??
もちろん、そんなわけはないんだけど。
たぶん、ふたりの間には“言葉”じゃない、
もっとふわっとした「やさしい間合い」があって、
それでなんとなく、許し合えるんだろうなと思う。
怒って、すねて、離れて。
でもまた近づいて、ぺたんと寄り添う。
その繰り返しが、きっと「一緒に生きてる」ってことなんだ。
だから私は今日も、どちらかがすねたら、
ちょっとだけ気づかないふりをして、そっとしておく。
そして、ふたりがまた近づいているのを見つけたら、
心の中で、こっそり拍手するのだ。
『よかったね、仲直りできたね』って。
すねるのも、きっと愛のうち。
そして、仲直りは、愛のかたち。
今日もこたつの中には、ふたりの“ちょうどいい距離感”が眠っている。

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