【ふたりといた時間】第29話:「大丈夫」と言われても

はなとぶんの時間

病院で診てもらい、”点滴で様子を見ていきましょう”という言葉に、正直ホッとした。
重たい不安のかたまりが、少しだけ軽くなったような気がしたからだ。

だけど——
それでも、心のどこかはざわついたままだった。

“大丈夫ですよ”と先生は言ってくれた。
でも、私の中に残ったのは、「大丈夫」という言葉の重さだった。

どれくらい、大丈夫なのか。
いつまで、大丈夫なのか。
その“大丈夫”の中に、「治る」という希望はあるのか。

そして私は、どうしたらいいんだろう——。


点滴を始めてから、はなは見違えるほど元気になった。

月に一度、亜希子さんに来てもらって点滴を打ってもらう。
はなは最初の頃、針を刺されるたびに必死に抵抗していたけれど、
少しずつ慣れてきたのか、じっと我慢して受けてくれるようになった。

そして数時間もしないうちに、
はなはふわっと軽くなったように、部屋の中を歩き出す。

よく食べて、よく寝て、
ぶんと一緒に、また部屋を走り回るようになった。

ああ、また『いつものはな』だ——

それはうれしくて、でも、どこか切なかった。


私が夜遅くまで残業して帰ってきても、
玄関を開けると、はなとぶんが並んで待っている。

ぶんは眠そうな目で、ちょこんと座っていて、
はなはその後ろから目をこすりながら、ゆっくり歩いてくる。

どんなに具合が悪くても、
一生懸命に玄関まで迎えに来てくれる。

その姿に、胸がきゅうっと締めつけられる。

『ただいま、はな』

そう言いながら、私はただ、頭をなでるしかできなかった。


悩んだ末に、私はひとつの答えを出した。

——治すことはできなくても、
せっかく人間と暮らしているのだから、
はなができるだけ、苦しくならないようにしたい。

“最後まで、楽に生きる”を。

無理に病院へ通わせたり、検査を重ねたりはしない。
はなが”いつもの毎日”を送れるように、
その時間を、できる限りそばで支えること。

そして、どこまでも寄り添うこと。

それが、私なりのはなとの向き合い方だ。

「大丈夫」と言われても、不安がゼロになることはない。
だけど、はなが笑っていてくれたら——
その一瞬一瞬が、「大丈夫」にしてくれる気がした。

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