はなが、ごはんのあとに「ゲ〜」とする回数が増えてきた。
前までは、たまに食べすぎて吐くくらいだった。
でも最近は、食べてすぐに吐いてしまう。
カリカリでも、おいしーのでも、関係なく。
『また、出ちゃったね』
優しく拭き取りながら、心の奥にじんわりと何かが広がっていく。
食欲はあるのに、食べられない。
元気そうなのに、痩せていく。
撫でていると、背中の骨がゴツゴツと指先にあたる。
——痩せたね、はな。
声には出せなかった。
でも、思わずぎゅっと抱きしめたくなった。
それすら負担になりそうで、そっと手を添えるだけにした。
『点滴、打とうか』
点滴をすると、はなは少しだけ楽になる。
食べて、眠って、ぶんとひと遊びして——
そんな“いつもの日常”に、ほんの少しだけ戻ってくれる。
私は亜希子さんに相談した。
『今のペースだと、ちょっと間に合ってない気がして……』
月に一度だった点滴を、半月に一度に変更することにした。
あるいは、体調が悪くなったときにその都度打つように——。
はなの命の時間に、私たちが合わせる。
それが、自然なことのように思えた。
せっかく人間と一緒に暮らしているのだから、
我慢させるより、少しでも楽になる方法を選びたいと思った。
夜、ソファで本を読んでいたら、はながそっと横にやってきた。
いつものように、私の膝の横にちょこんと座る。
でも、その胸が、上下に小さく早く動いていた。
『はな……?』
呼吸が、少し速い。
ゼエゼエと、ほんのかすかに音がする。
慌てて抱き上げたりせず、
そっと背中に手を当てて、撫でる。
はなは目を閉じて、
静かにその手を受け入れてくれた。
そのとき、ふと感じた。
——はなの目に映る世界が、少しずつ遠ざかっている。
私のことも、ぶんのことも、ちゃんとわかっている。
反応もしてくれる。まだ大丈夫、そう思いたい。
でも、どこかで、ほんの少しずつ、
この世界から離れていこうとしているような気がしてならなかった。
だから、私はそっとつぶやいた。
『はな、大丈夫。点滴したら、少し楽になるからね』
それは、“治る”という希望じゃない。
“楽になる”という願い。
せめて、つらさが和らぎますように。
ぬくもりの中で、眠れますように。
そんな想いを込めて、私は泣きながら、そっと背中を撫で続けた。

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