テントの奥で、ぶんはじっと丸くなっていた。
何度も声をかけたけれど、返事はなかった。
「ぶん。点滴の時間だよ。……楽になるから」
そう言っても、ぶんは動かない。
目を閉じたまま、気配だけがそこにある。
私と離れてから、ぶんは少しずつ食べなくなった。
食べては吐き、そのたびに、口のまわりをぺろぺろと気にするしぐさが増えた。
本当に喉にヘルペスがあるのか、それとも、もう吐くのが嫌になったのか。
ぶんの食事は、やがて「まったく食べない」に変わっていった。
ある日、亜希子さんがこう言った。
「ぶんのこと……できれば、そばにいてあげて。安心できると思うの」
その言葉に、私はうなずいた。
ぶんと離れたことを、ずっと胸の奥で悔いていたから。
もう一度、あの子と暮らしたい。たとえ短い時間でも。
そして再び始まった、ぶんとの生活。
でも、あの頃のような元気な姿は、もう戻ってこなかった。
点滴の回数が、日を追うごとに増えていった。
はなのときと同じように、亜希子さんが毎日のように来てくれた。
ぶんは臆病だから、点滴のときはイヤイヤする。
それでも、静かに——されるがままに受け入れていた。
点滴が効いてくると、ぶんは少し落ち着いた顔になる。
ヨタヨタと私のそばへ歩いてきて、布団にもぐりこむ。
そして、そっと身体を寄せてくる。
「ぶん……」
私はそのぬくもりを、両腕で包み込んだ。
痩せて骨ばっていても、そのあたたかさは確かにそこにあった。
小さな命が、懸命にがんばっている。
「無理しなくていいんだよ。苦しいときは、休んでいいんだよ」
——ぶんは、私のわがままに振り回されていたのかもしれない。
それでも、またこうして、そばに来てくれた。
静かに、静かに。
ただ一緒にいる時間が、流れていく。
夜。
布団の中で、ぶんの呼吸を感じながら、私はそっと目を閉じた。
この子のぬくもりを、ちゃんと覚えておきたいと思った。
——ぶんは、がんばっていた。
言葉では言わないけれど、全身で伝えてくれていた。
「ここにいるよ。たっちゃんのそばにいるよ」って。
私は、ただその背中に手を置きながら、
ありがとう、ありがとうって、心の中で何度もつぶやいた。

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