【ふたりといた時間】第43話:ぶんの、がんばり

はなとぶんの時間

テントの奥で、ぶんはじっと丸くなっていた。

何度も声をかけたけれど、返事はなかった。

「ぶん。点滴の時間だよ。……楽になるから」

そう言っても、ぶんは動かない。
目を閉じたまま、気配だけがそこにある。

私と離れてから、ぶんは少しずつ食べなくなった。
食べては吐き、そのたびに、口のまわりをぺろぺろと気にするしぐさが増えた。
本当に喉にヘルペスがあるのか、それとも、もう吐くのが嫌になったのか。
ぶんの食事は、やがて「まったく食べない」に変わっていった。

ある日、亜希子さんがこう言った。

「ぶんのこと……できれば、そばにいてあげて。安心できると思うの」

その言葉に、私はうなずいた。
ぶんと離れたことを、ずっと胸の奥で悔いていたから。
もう一度、あの子と暮らしたい。たとえ短い時間でも。

そして再び始まった、ぶんとの生活。
でも、あの頃のような元気な姿は、もう戻ってこなかった。

点滴の回数が、日を追うごとに増えていった。
はなのときと同じように、亜希子さんが毎日のように来てくれた。
ぶんは臆病だから、点滴のときはイヤイヤする。
それでも、静かに——されるがままに受け入れていた。

点滴が効いてくると、ぶんは少し落ち着いた顔になる。
ヨタヨタと私のそばへ歩いてきて、布団にもぐりこむ。
そして、そっと身体を寄せてくる。

「ぶん……」

私はそのぬくもりを、両腕で包み込んだ。
痩せて骨ばっていても、そのあたたかさは確かにそこにあった。
小さな命が、懸命にがんばっている。

「無理しなくていいんだよ。苦しいときは、休んでいいんだよ」

——ぶんは、私のわがままに振り回されていたのかもしれない。
それでも、またこうして、そばに来てくれた。

静かに、静かに。
ただ一緒にいる時間が、流れていく。

夜。
布団の中で、ぶんの呼吸を感じながら、私はそっと目を閉じた。
この子のぬくもりを、ちゃんと覚えておきたいと思った。

——ぶんは、がんばっていた。
言葉では言わないけれど、全身で伝えてくれていた。
「ここにいるよ。たっちゃんのそばにいるよ」って。

私は、ただその背中に手を置きながら、
ありがとう、ありがとうって、心の中で何度もつぶやいた。

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