『ちょっと歩いてこようかな』
朝9時ごろ、曇り空。
じっとりとした湿気が肌にまとわりついて、虫まで汗に吸い寄せられてくるようで、正直あまり快適とは言えなかった。
でも、なんとなく…
そう、なんとなく気分転換がしたかった。
気持ちが落ちているときって、部屋に閉じこもっているよりも、緑の中に身を置きたくなる。
Googleマップを眺めたら”昭和の森公園”が目に入った
『あれ、ここって森だったっけ?』
記憶の中では、体育館のまわりに少し木があるくらいの場所だった気がする。
でも地図で見ると、思っていたよりしっかりとした森林に囲まれているようだった。
『まぁ、少しは自然を感じられるかもしれない』
そんな軽い気持ちで家を飛び出した。
昭和の森公園まではちょっとした坂道で、途中に小さな神社がある。
その脇に登山道のような坂道が続いていた。
ただの舗装路かと思っていたその坂が、想像以上に“森”で、ちょっと驚いた。
鳥の声、草の匂い、葉が擦れ合う音
まさかここが、こんなに本格的な森林だったなんて。
坂を登り切ると、大きな建物——病院や学校が視界に飛び込んできた。
あぁ、ちょっと残念。
この建物さえなければ、もっともっと森の中に没入できたのに。
そう思いながら、また木々の方へと足を向ける。
しかし道中、誰ともすれ違わなかった。
その静けさがかえって、森の気配を際立たせていた。
耳を澄ますと、鳥の声の向こうから遠く車の音が聞こえる。
自然と人工の境目に立っているような、不思議な感覚だった。
そのときだった…
柵に囲まれたテニスコートの隅に、すっと何かが現れた。
キツネだった。
しばらく、お互いに睨めっこのような時間が続いた。
もちろん、攻撃的な空気ではない。ただ、人と動物として互いを確かめ合っている。
その時間が妙に心地よくて、あのしなやかな動きは今も目に焼きついている。
(……はなとぶん、あんなのに会ったら食べられちゃうかな)
いやいや、縁起でもない。でも、そんな想像をしてしまった自分にちょっと笑ってしまった。
森の中には、細い川も流れていた
水音と風の音が重なって、深く呼吸ができる。
いつもは飯綱や戸隠まで行かないと自然を感じられないと思っていたけれど、
『ここで、十分かもな』
そんなふうに思えた。
もっと早く来ていればよかった。
虫除けスプレーは、今度から必須だな、なんて考えながら、坂道をゆっくりと降りていく。
身体はじんわり汗ばんで、足はほどよく疲れていたけど、
心は少し軽くなっていた。
帰宅してシャワーを浴びてから、コーヒーを飲んだら、いつも以上に妙にホッとした。
やっぱり、歩くって、いい。
アクセス
・住所:〒381-0085 長野県長野市上野2丁目120−13
・営業時間:24時間
・駐車場:有
・HP:なし
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