【ふたりといた時間】第7話:おそろいの首輪

短編小説

あの日、たしか買い物ついでに寄ったホームセンターだった。
おやつコーナーの隣に、ひっそり並んでいたペットグッズ。
何気なく手に取ったのは、ピンクとグレーの小さな首輪だった。

『おそろいにしたら、可愛いかもな…』

レジに向かうときには、もうそのふたつがカゴの中に入っていた。
それはちょっとした気まぐれで、だけど、その日のわたしにはなぜかとても大事なことのように思えた。

帰ってきて、早速ふたりに見せてみる。
まずは、窓辺でじっと外を眺めていたはなに。

『ねぇ、これつけてみよう?ピンク、似合うと思うんだけど』

そう言って首元にそっと当てた瞬間――

スルスルッ!と信じられない速さで前足が動き、次の瞬間にはもう、もがき始めていた。
「イヤだってばー!!」と心の声が聞こえそうなほどの大暴れ。
わたしの手から奪い取った首輪は、くるくるっと空を舞って、カツンと床に落ちた。

はなは、鼻をふんっと鳴らして、スタスタとその場を離れていった。

つ、つけられない…。

次に目を向けたのは、タンスの上のテントからひょこっと顔を出していたぶん。

『ぶん、お願い…ぶんならきっと…』

そう淡い期待を込めてそっと首輪をつけると、ぶんは数秒の沈黙のあと、

「バターン!」

と勢いよく横に倒れ、前足を上にのばして万歳ポーズ。
まるで「もう…お好きにどうぞ…」とでも言いたげなその姿に、こらえきれず吹き出してしまった。

たった数分で、首輪チャレンジは幕を閉じた。
でも、そのときのふたりの反応は、今でも心の中に鮮やかに残っている。

見た目はバラバラ、首輪なんてとても無理。
でもね、気づいたんだ。

ふたりはとっくに“おそろい”だった。

たとえば、朝になるとそれぞれの“日課ルート”を歩く。
ぶんは夜と朝方の「ウォーン」と鳴きながら巡回の後、タンスの上のテントに直行、はなは窓辺にぴょこんと座って、じーっと外を眺める。
細長いスペースなのに、ちゃんと姿勢を正して座るその姿は、ちょっとした見張り番のようだった。

「カサッ」とごはん袋の音がすると、はなもぶんもすっ飛んでくる。
けれどカリカリだと、ちょっとしょんぼり。

「……なんだ、カリカリか」
そんな風に目で訴えてくるのが、たまらなく可愛かった。

でも、1番“おそろい”を感じたのは、わたしが落ち込んでいた日だった。

夜、どうしても気持ちが沈んで、布団にくるまって泣いていた。
そっとやってきたのは、はな。
「にゃー」と一声鳴いて、私の手をちょんちょんと猫パンチ。
まるで「泣いてる場合じゃないよ」と叱っているみたいだった。

その数分後、今度はぶんがやってきて、無言で背を向けてわたしのそばに横になる。
顔は見せず、でもずっと一緒にいてくれる。
見てないふりして、寄り添ってくれていた。

ふたりとも、やり方は全然違うのに、優しさはまっすぐだった。

はなとぶんのおそろいは、今も心の中にしまってある。
首輪は、実際につけた日はなかったけれど、
ふたりがわたしにくれた“おそろいの優しさ”は今もずっと忘れない。

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