【ふたりといた時間】第10話:やっと、家族になった日

短編小説

朝から、心に決めていた。
今日はもう、絶対に外に出ない。
誰とも会いたくないし、何もしたくない。
仕事の疲れも、気疲れも、全部ブランケットにくるんでしまいたい。

『ソファから一歩も動かない』っていう、ちょっとした宣言みたいなもの。
それが今日の予定表の、唯一にして最優先の項目だった。

自然に目が覚めた朝。
私はそのままソファに座って、ぼんやり天井を見上げていた。
すると、足元から「ふにゃ」っと鳴き声。

「にゃー……(撫でろ)」
そんな声にしか聞こえないひと声を残して、はながやってきた。窓辺にぴょこんと座って、じーっと外を眺めるルーティーンを終えた後。新聞を開いた私の横、太ももの横あたりに“ぽふん”と座る。

『はいはい、おはよう』
私は片手で新聞を押さえたまま、もう片方の手で、そっとはなを撫でる。
「ゴロゴロ…ゴロゴロ…」
のどを鳴らしながら、目を細めてうっとりするはな。
そして、満足したのか、ふわりと立ち上がって、いつもの猫ベッドへ帰っていった。

……なんだかんだ、毎朝の“おはよう”がわり。
そして、私もそれを待っている。

この頃になると、ぶんにもちゃんとルーティンができた。

時は夜にさかのぼる。
お風呂から上がって、ソファに腰を下ろした瞬間——
「ちょこん」と、ぶんが膝の上に乗ってくる。
ほんの一瞬の迷いもなく。
まるで「ここ、空いてるよね?」とでも言いたげに。

前はね、そんなこと考えられなかった…。

でも今はこうして、私の膝が、ぶんの“定位置”になっている。
だっこじゃないけど、“ぴたり”と寄り添ってくれるその体温に、
私は何度も救われてきた。

昼食が終わると、はなとぶんが、次のルーティンに誘ってくる。
いつの間にか私の行動も、彼らの流れに組み込まれていたらしい。

はなは猫ベッドでまどろみ始め、ぶんは窓際の陽だまりをぼんやり眺めている。私はこたつ布団をブランケット代わりにして、ソファにごろんと横になる。

『ふぅ……今日はこのまま、なーんにもしなくていいんだよね』
あらためて、誰にともなくつぶやいたそのときだった。

ふわり、と何かが胸の上にのしかかる感触。
はなだ。そっと、でも確実に、胸の上に乗ってきた。
その重みが、心地よくて。

続けて、ぶん。
ゆっくりと足元から膝の上に滑り込んでくると、
「ぽてっ」と体を崩して、私の足元に収まった。

なんの打ち合わせもないのに、
三人でぴたりと寄り添って、同じブランケットの下で目を閉じる。

『……なんだこれw』
思わず笑ってしまった。

私の胸の上にはな。
足元にはぶん。
私はふたりの呼吸のリズムを、体で感じながら、まどろみに身を委ねる。

ああ、なんか……
『家族みたい』

いや、違うな。
『家族、だ』

いつの間にか、私の暮らしの中心には、このふたりがいる。
はながいて、ぶんがいて、
そして——私がいる。

昔は、「家族」って与えられるものだと思ってた。
育ててもらうもの、守ってもらうもの。
でも今、私はこの子たちのためにソファをあけて、ブランケットを広げて、
撫でて、あやして、一緒に眠って——

気づけば、私が家族を作っていた。

それって、なんだかすごく不思議で。
でも、すごくあたたかい。

外の世界を一日まるごとシャットアウトしたこの時間が、
私にとって、いちばん贅沢な日常になった。

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