【ふたりといた時間】第11話:引っ越し大作戦、始まる!

短編小説

『なんか…最近、狭くない?』

🟩2章:にぎやかな毎日(1125話)

フッとつぶやいたその声に、応えるように視線を上げたのは――ソファとベッドをしれっと占領している、ふたりの猫だった。

はなはベッドのど真ん中で、きれいに丸くなって寝ている。
ぶんはといえば、ソファの背もたれに無理やり体をねじ込んで、しっぽだけがぴょこんと垂れ下がっていた。

『いや、ちょっと待って。ふたりとも……でかくなったよね?』

ごはんもよく食べるし、遊びも寝るのも全力投球。
毎日を惜しまず生きているその姿が、日に日にまるっと、ふっくらしてきている。

遠目から見たら……うん、たぬき?
いや、もうこれは正真正銘、毛玉たぬきーズである(笑)。

そんなふたりに合わせるように、私の部屋は限界を迎えていた。

『というわけで、引っ越そう!』

そう決めたのは、ある雨上がりの朝のことだった。


荷造りを始めると、当然のように段ボールの中に入るふたり。
中身の確認どころか、彼らの「居場所確認」が最優先。

『そこ、台所用の箱だからー!』
『ぎゃっ、それはゴミ袋……あああ!』

ぶんは段ボールの中からじっと私を睨み、
はなはゴミ袋の中でごそごそと探検隊ごっこ。

……引っ越しって、こんなに猫参加型イベントだったっけ?


そして迎えた引っ越し当日。

キャリーバッグに入ったとたん、はなとぶんのデュエットが始まった。

「にゃああああ!」「みゃああん!」

『うんうん、わかるよ、車は慣れないもんね……でも、ちょっとだけ我慢して……』

助手席の足元で、小さなキャリー箱がふたつ、交互に不満をぶつけてくる。
まるで猫のBGM。いや、これはもう猫二重奏。
エンドレスにゃーにゃーラプソディ。


なんとか新居に到着して、そっとキャリーを開けると――

ぬるっと一歩、また一歩。
ふたりとも、ヒソヒソ足であたりを警戒しながら歩き出す。

『ここが……ふたりの新しい家だよ。えっ、そこが安全地帯なの?!』

引っ越し屋さんが帰ったあとも、段ボールの山の中に潜り込んで、しばらくはじっとしていた。


でもね、猫ってすごい。

ほんの数分もすれば、探検本能が勝ってくる。

『ほら、こっちにも部屋があるよ。はなが好きそうな……階段付き!』

新しい家は、メゾネットタイプ。
はなは階段を見た瞬間、目をきらきらさせて、ぴょんっ。一段、また一段と軽やかに駆け上がっていく。

ぶんは最初、階段の途中で「なにこれ、こわい」って固まってたくせに、気がついたら誰よりも上まで突っ走ってた。

そして、始まるふたりの運動会。

トトトッ、タタンッ、にゃーっ!

……ねぇ、私よりテンション上がってない?


引っ越しって、バタバタして、疲れて、
ちょっぴり切なくて、でもどこか、新しい冒険みたいだった。

その夜、ふと思った。

『ふたりのために家を選んで、空間を作って……あれ?私、今、“ねこの家”を作ってるんだな』

猫と暮らすということ。
猫が楽しく過ごせる“空間”を整えるということ。

それは、ただの引っ越しなんかじゃなかった。

きっと、もっと家族になっていく一歩だったんだ。


このまま、ふたりとの新しい生活が
静かに、そして賑やかに、第2章の幕開け。

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