【ふたりといた時間】第12話:ぶんと掃除機の仁義なき戦い

短編小説

引っ越して、まだ間もない朝のことだった。

はなとぶんは朝ごはんを食べ、窓辺でひなたぼっこ。
お気に入りのルーティンを終え、ふたりしてまったりくつろいでいた、そのとき。

私は、そっと壁に立てかけてあった――掃除機を取り出した。

カチッ。

スイッチを入れた、その瞬間。

「にゃああああっ!!」

ドタバタッ、ドドドッ!

ぶん、即ダッシュ。
驚異の瞬発力でリビングを一閃し、まるで流れるようなフォームで押し入れの奥へとスライディングIN。

『ぶん……今日も華麗だったよ』

静まり返った部屋に、掃除機の唸りだけが虚しく響く。

でも逃げるのは、ぶんだけじゃない。

「みゃっ!」

はなもつられるように、キャットタワーのてっぺんへぴょんっ!

そのまま、じーっと高みの見物。
まんまるな目で、身をかがめ、遠くから“怪物”の動きを観察している。

私は、何事もなかったようにリビングの掃除を始める。

押し入れのすき間から、ぶんの視線がチラリ。

掃除機が別の方向を向いた瞬間――
そろりと顔だけ出してきた。

『ぶん、それ、隠れてるつもりなんだよね?』

……いや、ちょっとわかるよ。
大きな音で、得体の知れない動きをする“それ”。
猫にとっては、まさに未知の生命体。

掃除が終わり、スイッチを切ると――急に訪れる静けさ。

すると、ふたりともすぐに現れてきて、くんくん、ぺたぺた。
自分のテリトリーを確かめるように、部屋中を歩き回る。

それから、ちょうどいい場所を見つけて、どてん。
丸くなって、すやすや。

『なんだかんだで……やっぱり、きれいな部屋って落ち着くのかな?』

その様子を見ながら、ちょっとだけうれしくなる。

午後、私は買い物へ。

そして帰宅すると――
ベッドの上にはながくるん、ソファの上にはぶんがぐでーん。

静かに、でも確実に。
この家が、ふたりにとって“安心できる場所”になっていることを感じた。

掃除機との戦いは、きっとこれからも続くだろうけど……
今日もまた、きれいな空間で、お昼寝できたらそれでいいよね。

ぶん。
……次こそ、掃除機とちょっとだけ仲良くなってみる?

……うん、ないか。

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