【ふたりといた時間】第14話:はなの“たっちゃーん”とよぶ日

短編小説

朝ごはんを食べ終えて、ひなたぼっこして、窓の外の鳥をしばらく眺めたら――
ふたりの中で、なんとなく「食後の甘えん坊タイム」が始まる時間になる。

私がソファに座ると、ぶんがゆっくり歩いてきて、私の足元で丸くなる。
そのすぐ後を追うように、はながやってくる。

はなは、私の膝の上には乗らない。
だけど、ちょこんと横に座って、じーっとこちらを見る。

『ん?どうした、はな』

顔を近づけると、ふにゃっとした声で「にゃっにゃーん」とひと鳴き。
その声が、今日はなんだか少し違って聞こえた。

『……たっちゃーん?』

聞き間違いかもしれない。でも、確かに、そう聞こえたんだ。

はなの声はときどき、ほんとうに人の言葉みたいに響くことがある。
「にゃっ」「にゃーん」「にゃあ」
中でも今日のそれは、どこか語尾が伸びていて、私の呼ばれてるような、そんな響きだった。

思わず笑ってしまったw。

『……はな、今、たっちゃーんって言った?』

はなは知らん顔で、しっぽをくるりと巻いて座っている。
でも、ちらっとだけ、こちらを見上げたその顔が、なんだか照れているようにも見えた。

じゃらしを手に取ると、はながぴょこんと前足を上げる。
少し間を置いて、ぶんも参戦。ぶんは最初、じーっと見つめるだけなんだけど、スイッチが入ると一気に俊敏になる。

ぴょんぴょん跳ねるはな。
じりじり間合いを詰めて一発で仕留めようとするぶん。
ふたりの遊び方はまるで違うのに、どちらも私のじゃらしに夢中になってくれるのが、ちょっと嬉しい。

ひとしきり遊んで、ぶんは再び足元でどてん。
はなはソファのひじ掛けに移動して、少し身をかがめるように座る。

ぽかぽかの日差しの中で、私の横にいるふたり。
静かで、幸せな時間。

『はな、あれ偶然かもしれないけどさ――
 私、けっこううれしかったよ』

返事はない。
でも、はなのしっぽが、ふにゃっと力を抜いたように動いた。

たぶん、これからも、はなはときどき「たっちゃーん」って呼んでくれる気がする。ほんとうは「にゃーん」なんだろうけど――それでもいい。

それが、はななりの、気持ちの伝え方なんだと思うから。

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