【ふたりといた時間】第17話:はじめてのお風呂、兄弟の絆

短編小説

はなとぶんをお風呂に入れるというのは、もう戦場だ。

リビングで捕まえようとすると、するりと転がって逃げるはな。 そういえば引っ越しの車中で、キャリーケースの中で「にゃあぁぁっ!」と大げさに鳴いて、大変な抗議の嵐だったっけw。

——まずは、はなから

お湯をかければ、最初はシャワーの温度が心地良いのか大人しくしているが、それはほんの数秒。その直後にびっくりして飛び上がり、バスルームの壁をよじ登ろうとしたりで、こっちが泡まみれ。

『ちょっとだけ、がまんして〜……!』と声をかけても、まるで通じない。

そんな中、ガラス扉の向こうから、もうひとつの声がする。

「にゃ〜、にゃあ〜……」

ぶんだった。 ちょこんと座って、浴室の中をじっと見つめながら、小さな声で鳴いている。 心配なのかはなが、知らない場所でなにか怖いことでもされてると思っているのだろうか。

その様子が、私の胸をじんわりさせた。

——そして、はなのターンが終わったら、今度はぶんの番。

当然、ぶんもぶんで、大騒ぎだ。 しぶしぶ濡らされて、ストレスがかかり爪をたてて私の腕にしがみつく。私の腕は傷だらけ。でも、ぶんはおかまいなしで「にゃっ! にゃっ!」と訴えるように暴れる。はなとは違い、男の子のぶんは力が強い。

『こりゃ大変だ…ぶん、あと少し、あと少しで終わるからね〜』

そんなぶんを洗っているそのとき、さっきまでびしょ濡れだったはなが、今度は浴室の扉の前で座って待っている。 毛がまだ乾ききっていないのに、ぽすんと腰を下ろして、ぶんの声に反応して「にゃ〜、にゃあ〜……」と鳴いている。

お互いに「何か怖いことが起きてる」と思ってるのかもしれない。 でも、だからこそ、見守らずにはいられないのかな…。

“家族だから”——なんて言葉を知らなくても、こういう瞬間に、ふたりは確かに「兄弟」なのだと思う。

ぶんも終わり—— はなは毛が長いぶん乾くのが遅いので、もう一度タオルでざっと拭きに行く。必死で逃げるのを抑え、が〜っと拭いたとき、

ほんの一瞬だけ、足元がふらついた。

『……ん?』

私は少し反省した。『やりすぎたかな…』 でも、はなはすぐに体勢を立て直して、何事もなかったかのように窓辺に直行! ひなたぼっこしながら乾かす気だろう。

夕方になるとふたりの毛が乾き、ふたりはふっかふかw。 はなは毛が長いから乾くのに少し時間がかかるけど、 それでもどこか満足そうに、クッションの上で転がっている。

『ふたりとも、さっぱりしたねぇ』

そう言って撫でると、はなは目を細めて喉を鳴らし、 ぶんはまぶたを半分だけ閉じて、ぴくんと耳を動かす。

いつのまにか、ふたりは並んで、 ぽかぽかとこたつの下でくるりと丸くなっていた。

——お風呂って、ただ清潔になるだけじゃなくて、 疲れた心までふわっと軽くしてくれるのかもしれない。

そして、あの姿を見るたびに思うのだ。

兄弟って、不思議な絆でつながっている。 扉の向こうで待っているその優しさが、なんともいえず、あたたかい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました