あたりは真っ暗。
カーテン越しに、街灯のオレンジ色がぼんやりと差し込んでいる。
時計を見れば、深夜1時。
静かすぎる夜——のはずだった。
……ドドドドド!
どこかで何かが転がる音。
続いて、「ウォーン!」という軽めの鳴き声。
『……やってるな』
はなとぶんだ。
どうやら、ふたりの“夜のスイッチ”が入ってしまったらしい。
ひと晩のうちに何度目かの、夜中の大運動会。
階段を駆け上がる足音。
何かにぶつかる音。
「にゃっ〜!」と挑発するような声。
『……うるさいっ』
布団から頭だけ出して、低い声で注意する。
でも効果は、なし。
『はなー……ぶん……うるさいってば……』
懇願するようなトーンに変えても、ドタドタと足音は続く。
ぶんがジャンプしたらしい、「ドッ、ドスッ!」という重めの着地音が響く。
(おい……明日も仕事なんだけど)
心の中でつぶやいた言葉は、だんだんとイラ立ちに変わっていく。
……が、そんなことはふたりには関係ない。数秒後には、また走り出す。
『こらぁ……っ、うるさいってばぁ……!』
怒鳴ってるつもりなのに、声がどこか情けない。
布団をかぶって耳をふさいでも、ふたりのテンションは止まらない。
やがて、だんだんと足音が小さくなっていった。
廊下のほうから、そろそろと戻ってくる気配。
押し入れのふすまが「ガタン」と揺れて、ぶんがもぐり込んだらしい音。
足元には、そろりとはなの体温が触れる。
私はため息をついて、まぶたを閉じた。
『……ほんと、自由すぎるでしょ、君たち』
しっぽで足をちょいちょいとつつかれながら、そんなことをつぶやく。
でも、きっと——
この深夜の騒がしさも、やがては恋しくなるんだろうな。
何年たっても、私はこの“うるさい夜”を思い出す。
それもきっと、大切な思い出のひとつとして——。
コメント