【ふたりといた時間】第19話:夜中の大運動会

短編小説

あたりは真っ暗。
カーテン越しに、街灯のオレンジ色がぼんやりと差し込んでいる。

時計を見れば、深夜1時。
静かすぎる夜——のはずだった。

……ドドドドド!

どこかで何かが転がる音。
続いて、「ウォーン!」という軽めの鳴き声。

『……やってるな』

はなとぶんだ。
どうやら、ふたりの“夜のスイッチ”が入ってしまったらしい。

ひと晩のうちに何度目かの、夜中の大運動会。

階段を駆け上がる足音。
何かにぶつかる音。
「にゃっ〜!」と挑発するような声。

『……うるさいっ』

布団から頭だけ出して、低い声で注意する。
でも効果は、なし。

『はなー……ぶん……うるさいってば……』

懇願するようなトーンに変えても、ドタドタと足音は続く。
ぶんがジャンプしたらしい、「ドッ、ドスッ!」という重めの着地音が響く。

(おい……明日も仕事なんだけど)

心の中でつぶやいた言葉は、だんだんとイラ立ちに変わっていく。
……が、そんなことはふたりには関係ない。数秒後には、また走り出す。

『こらぁ……っ、うるさいってばぁ……!』

怒鳴ってるつもりなのに、声がどこか情けない。
布団をかぶって耳をふさいでも、ふたりのテンションは止まらない。

やがて、だんだんと足音が小さくなっていった。

廊下のほうから、そろそろと戻ってくる気配。
押し入れのふすまが「ガタン」と揺れて、ぶんがもぐり込んだらしい音。

足元には、そろりとはなの体温が触れる。

私はため息をついて、まぶたを閉じた。

『……ほんと、自由すぎるでしょ、君たち』

しっぽで足をちょいちょいとつつかれながら、そんなことをつぶやく。

でも、きっと——
この深夜の騒がしさも、やがては恋しくなるんだろうな。

何年たっても、私はこの“うるさい夜”を思い出す。
それもきっと、大切な思い出のひとつとして——。

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