誕生日は、よくわからない。
実は、はなもぶんも、正確な年齢はわからない。
亜希子さんから譲ってもらったとき、誕生日はいつ?なんて頭にはなかったのだ。
だから、はなとぶんの年齢は、あくまで憶測のものだ。
あとになって改めて「生まれた日、覚えてる?」と聞いてみたけど、
亜希子さんは少し笑いながら「うーん、忘れちゃった」と。
……ですよね〜、という感じ。
譲ってもらったときに聞いておけばよかったなと、ちょっぴり後悔した。
何の記念日でもない、ただの平日。
でもその日の帰り道、ふと私はケーキを買って帰った。
はなとぶんは食べられない。
それでも、一緒に過ごしてきた日々のなかで、「今日」を祝いたくなった。
スーパーで買った、小さなショートケーキ。
ビニール袋を提げて玄関を開けると——
足元に、はなとぶんがぴょこりと現れた。
私の顔を見て安心したのか、ふたりそろって伸びをして、
まるで「おかえり」と言ってくれているようだった。
『今日はね、記念日なんだよ』
そうつぶやきながら、ケーキをテーブルの上に置く。
はなは匂いをクンクンかいで、すぐにぷいっと横を向いた。
ぶんは横からそっと手を伸ばしてきたけれど、
『だめだよー』とお皿を引き寄せると、しぶしぶ手を引っ込めた。
『ありがとう』
私は、小さな声でつぶやいた。
誰に聞かせるでもなく、ただ心のなかで。
猫たちと暮らすようになってから、私は少しずつ変わったと思う。
昔の私は、正直言って「自分のためだけに生きていた」。
それが悪いことだとは思わない。
でも、今はちょっとだけ違う。
朝起きるのも、夜早く帰ってくるのも、
「待ってくれている存在がいる」って思えるから、できること。
自分の好きな時間にごはんを食べて、好きな場所で寝る。
そんな時間が、いつの間にか——
ふたりのちょっとした気まぐれに左右されている。
それが、不思議と心地よい。
はなとぶんがいたから、私はちゃんと「生活」している。
今思うと、そう感じられるようになった日が、
どれほど自分を変えていったのか、もう数えきれない。
記念日って、べつにカレンダーに印をつけなくたっていいのかもしれない。
特別な日じゃないけれど、
ふと「ありがとう」と言いたくなる日が、人生にはたしかにある。
そして——
それこそが、いちばん大切な日になるのかもしれない。
はなも、ぶんも、
今日はいつも通り、ごはんを食べて、少し遊んで、好きな場所で眠っていた。
何も変わらない、何も起こらない、ただの一日。
でも——
私の心には、小さなロウソクの火のように、静かな光がともっていた。
『ありがとう。うちに来てくれて』
心の中の記念日は、きっと、ずっと消えない。

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