私が仕事へ行った後。
はなは早々に、亜希子さんからステロイド点滴を打ってもらう。
時期、はなの呼吸は落ち着きを取り戻した。
心配だった。毎日、ステロイド点滴を受けると、身体が慣れ効かなくなる事が心配だったがそんな心配はいらない様だ。
何より、はなは亜希子さんに対して心を許していたのだと思う。
——きっと、生まれたときから知っている“におい”だからなのかな。
ちゃんと感じ取っていたのだろう。
「にゃー、にゃーって、けっこう鳴いてたのよ」
あとで亜希子さんは、そう教えてくれた。
元気だった頃のようにとは言えないけれど、
か弱い声で、私の後をついて回ったりして必死に何かを伝えようとしていたようだったと。
それは、たぶん——
小さくて、大きな「ありがとう」だったのかもしれない。
続けて亜希子さんが言う。
「押し入れの中や、こたつの中、はなちゃんね、一人になれそうな場所を探すように動いてたの。しっかり歩いて、足元のふらつきもなく…」
はなお得意の、自分の「ホッと出来る場所」を新たに探すように。ほんのわずかな時間だったけど、はなは元気に動いていた。
しかし、昼を過ぎたころ。
容態が急変。
もう目は、見えていないようだった。
まっすぐ歩くこともできず、ふらついては、倒れかけて——
はなは結局、電源の入っていない冷たいこたつの隅っこへ、最後の力を振りしぼって進んでいった。
スフィンクスのように静かに座っているはなに、亜希子さんはステロイド点滴を再度打つ。
亜希子さんから私に連絡がはいる。
「もうダメかもしれない…」
そんな言葉ではじまった。
そのとき、私はちょうど出先だったが、仕事を早めに切り上げさせてもらい、走るように家へと向かっていた。
道の途中で、何度もスマホを握りしめた。
信号がもどかしくて、靴音が響いて、
胸の鼓動と呼吸が、ずっと落ち着かなかった。
『待ってて、はな。
もうすぐ、帰るからね』

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