はながいなくなって、今日で何日が過ぎただろう。
部屋の空気は変わらないのに、胸の奥にぽっかりと、穴が空いたような気がしていた。
でも——
ぶんは、まるで何も変わらなかった。
いつも通りに目を覚まし、ごはんを食べて、毛づくろいをして、
私のところに甘えてきて、そしてまた、眠る。
そんなふうに、淡々と、毎日を過ごしていた。
はなの不在に戸惑う様子は……なかった。
いや、私が『そうであってほしい』と思いたかっただけかもしれない。
思い返すと、はなが体調を崩してからの私は、
ぶんにほとんど構ってあげられていなかった。
そのことが今になって、じわじわと胸を締めつける。
ぶんは、何も言わない。
でも、もしかしたら本当は——
はなに負けないくらい、寂しかったのかもしれない。
私はその思いが拭えず、仕事以外では外出を控えるようになった。
ぶんがひとりで過ごす時間を、少しでも減らしたくて。
——いや、それ以上に、私自身が「ひとり」になるのが怖かったのかもしれない。
そんな私の気持ちをよそに、ぶんは気ままに、家の中を歩き回っている。
そして、ふと気づく。
今まで、はながいた場所に——ぶんが、いる。
お気に入りだったソファの背もたれの上。
こたつの中の、あたたかい布団の端。
猫テントの中も、押入れの猫ベッドも。
全部が、いつの間にか「ぶんの居場所」になっていた。
はながいた頃は、譲り合っていた空間。
いや、正確には、はなが譲ってくれていた空間だったのかもしれない。
そこを今、ぶんは、まるでちょっとした冒険でもするように、満足そうに巡っている。
私はその姿を見て、思わずふっと笑った。
『ぶん、全部自分の場所になったんだね』
ぶんは甘えるときも、遠慮がなくなった。
いつの間にか、私の膝にぴょんと飛び乗ってきて、
「にゃ〜ん」と小さく鳴く。
頭をこすりつけて、鼻先を私の鼻にそっと押し当ててくる。
そして、喉をゴロゴロと鳴らしながら、気持ちよさそうに丸くなる。
そんな顔を見ていたら——私は少しだけ、安心した。
『そうか。大丈夫そうだな、ぶん』
そう声をかけると、ぶんはちょこんと首を傾げ、
そのまま私の膝の上で、目を閉じた。
『……はな?』
思わず、ぽつりとそう呟いた。
『そっか。はなは、いないんだったね』
静かな部屋。
少しだけ広く感じる空間。
そこに寄り添ってくれる、ぶん。
——ぶんは、ちゃんと前を向いている。
すこしずつ「ひとり」になって、すこしずつ、私と向き合ってくれている。
それが、ぶんなりの答えなんだろう。
私はぶんの背中に、そっと手を添えた。
ゆっくりと撫でるたびに、あたたかさが指先に伝わってくる。
そのぬくもりが、「だいじょうぶ」と語りかけてくれている気がした。

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