お昼すぎ。
少し遅めのお昼ごはんを終えて、
ふぅ、と一息ついたころ。
ふと、部屋の空気がゆっくりとやわらかくなっていくのを感じる。
『……静かだなあ』
そんなときはたいてい、
ふたりがそれぞれの“お昼寝スポット”に収まっている。
はなは、押し入れ。
お気に入りの布団のすき間に、器用に体をねじこんで、
まるで「最初からここに入るために作られた空間ですけど?」という顔をして寝ている。
ぶんは、ソファの上。
もしくは、テントの中。
季節や気分によって微妙に使い分けてるところが、ぶんらしい。
わたしはそのまま、そーっとソファに腰をおろして、
あたたかい飲み物を一口。
そして、耳をすます。
「ぴー……ぴー……」
……あ、聞こえる。はなのいびき。
はなのいびきは、なんというか、ちょっと鼻が鳴ってるような音。
おもちゃのピーピーって音に似てるから、初めて聞いたときはびっくりした。
『鳴いてるの?』って思ったくらい。
でも、そのすぐあとに、ぶんのいびきも聞こえてくる。
「すー……すー……」
こっちはやさしい音。
赤ちゃんみたいな寝息で、まるで穏やかな風が吹いてるみたい。
ふたりのいびきが、重なったり、ずれたり。
まるで即興の子守唄みたいで、
そのリズムに合わせて、こっちまで眠くなってしまう。
『……寝ちゃおっかな』
なんてつぶやいて、
ごろんと横になった午後。
はなのいる押し入れは、ちょっと遠いけど、
ぶんのいるテントとは近いから、こっそりそばに転がってみる。
するとぶんは一瞬、うす目をあけてこちらを見るけれど……
「ん、まあいっか」
みたいな顔をして、また目を閉じる。
これが逆にはなだったら、
「なに?」って顔して、ぐいっと背を向けて奥に入っていっちゃうから、おもしろい。
それぞれに、それぞれの「午後」がある。
でも、ぜんぶがひとつの空間の中にある。
わたしも、そのまんなかで目を閉じる。
ふたりと過ごす、
なんてことのない、でも何よりあたたかい午後。
——この時間がずっと続けばいいのに、って。
そんなふうに思う日が、何度もあった。

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