【ふたりといた時間】第35話:ふたりの目が合った夜

はなとぶんの時間

こたつの中から、かすかに聞こえる寝息。
ふたりの丸い背中が、寄り添うように並んでいる。
いつの間にか、寝る場所は3人一緒になっていた。

はなが好きな猫用のソファは、こたつの中に入れてある。
いつも愛用していたひざ掛けも、そっと敷いた。
夜、はながトイレや水を飲みに起きるとき、なるべくストレスにならないように、
部屋のすみずみまで整えた。

ごはん、水、トイレ——すべてが、はなの「一歩」で済むように。

でも、それだけが理由だったんだろうか?

ぶんは寂しがりやだから、私たちがいるこたつに来ているのかもしれない。
だけど——本当に、それだけかな……。

こたつの中を、私はふと、のぞいてみた。

するとそこにあったのは、言葉にならない光景だった。

はなと、ぶん。
ふたりが、目を合わせていた。

灯りのない、こたつの静けさの中で。
お互いの存在を確かめるように、じっと、見つめ合っていた。

何も鳴かない。
動きもしない。
ただ、そっと、目だけが合っていた。

胸の奥が、きゅうっと締めつけられた。

まるで、これからのことを話し合っているみたいだった。
あるいは、「ここにいるよ」と伝え合っているような——
そんな、静かな夜のまなざし。

私はそっと、何も言わずに毛布に顔をうずめた。

だって、もう分かっていたから。

ぶんも、私も。
はなのことが、愛おしくてたまらない。
だけど、できることは限られている。

だからこそ、一緒にいる。

少しでも長く、少しでもそばで。
ぬくもりを、静けさを、心の中の「大丈夫」を、そっと分け合うように。

『はな、ありがとうね』
『ぶんも、いてくれてありがとう』

心の中でそうつぶやいて、私は目を閉じた。
今夜もまた、こたつの中の小さな世界に、3人の呼吸が重なっていく。

ずっと、ずっと、一緒にいたい。
それは、願いじゃなくて、いまここにある日常。

何気なくて、でも、かけがえのない——
ふたりの目が合った、あの夜のことを、私達はきっと忘れない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました