1度だけ。1度だけ2人が夢に出てきてくれたことがある…
玄関ドアの向こうから、カサッ、と音がした。
まるで、誰かが小さな足で走ってきたような音。
——ぶん?
そう思って目を向けると、そこにいた。
玄関マットの上で、しっぽをふりふりしながら、私を見上げるぶん。
あの頃と同じように、口を少し開けて、声にならない声で何かを言っている。
「かまって」「なでて」って、そんな風に言っているように見えた。
家に上がると、ぶんは足元にすり寄ってきた。
ガッツリと頭を押しつけて、すりすりと頬を寄せてくる。
その感触。あたたかくて、懐かしい。
——こんなにも、ちゃんと感じるのに。
『ぶん……会いたかったよ。』
そう言うと、ぶんは私の手のひらをペロリとひと舐めし、満足そうに目を細めた。
そのとき、階段の上のほうから視線を感じた。
見上げると、そこにいたのは——はな。
階段の端から、こっそり顔だけのぞかせている。
少しむくれたような顔で。
『はな』
名前を呼ぶと、ふいっと目をそらした。
その瞬間、ぶんが階段を駆け上がろうとする。
『こら、ぶん!』と声をかけるより早く、はながぶんに向かって小さく「シャーッ」と怒る。
でも、それもほんの一瞬だった。
次の瞬間、ぶんは階段の途中で立ち止まり、はなの頭をぺろりとなめた。
はなは、まんざらでもない顔をしながらも、しつこいぶんにしっぽの先をちょん、と当てた。
——ああ、これだ。
これが、いつものふたり。
私はその光景をただ見つめていた。
懐かしくて、愛しくて、息が詰まりそうになる。
『会えた、やっと会えたね……はな、ぶん』
気づけば、言葉がこぼれていた。
その瞬間、ふたりの姿が少しずつ薄れていく。
光の粒のようになって、空気の中に溶けていく。
『待って……もう少しだけ……』
手を伸ばしたけれど、指先は空を切った。
——目が覚めた。
部屋の中は静かだった。
窓の外から、朝の光が静かに差し込んでいる。
頬を伝う涙の跡をそっと指でぬぐった。
夢だったのか、それとも——。
ふと足元を見ると、床の上に白い毛が一筋。
ぶんのものか、はなのものかはわからない。
でも、それを指先でつまんだ瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
あの感触。あの気配。
きっと、会いに来てくれたんだ。
——そう思いたかった。
私は目を閉じて、そっとつぶやく。
『ありがとうね、はな。ありがとうね、ぶん。
さあ……おいし〜の、食べようか。』


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